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「声と言葉のボクシング」団体戦・全国大会 高知新聞


金曜フリースペース  高知から生まれる新文学 「声と言葉のボクシング」  
本県2チーム 全国で活躍
2012.12.21 高知新聞朝刊  (全3,212字) 


 「ファイッ!」、カーン。レフェリーの掛け声とゴングの音が鳴り響き、リングの上ではボクサーがにらみ合う…ことはなかった。白いマットで動き始めたのは、グローブをはめたボクサー2人ではなく、3人組。しかも詩の朗読だ。

 「声と言葉のボクシング」は、こうやって始まる。全国はもとより高知でも次第に人気を集めており、10月に横浜市で開催された全国大会では、本県代表チームの「昭和歌謡曲B面」が準優勝。もう一つの本県代表「秘密結社☆イデア」も奮闘した。日本朗読ボクシング協会代表で音声詩人の楠(くすのき)かつのりさんは「高知から新しい文学が生まれつつある」とまで言う。「声と言葉のボクシング」って、いったい何だろう。全国で活躍した2チームの様子をのぞいてみた。(笹島康仁)


  ▼「昭和歌謡曲B面」  「頑張りや」のエールを

 「昭和歌謡曲B面」は下尾仁さん(43)、嶋崎ユリカさん(41)、田村ちかさん(34)の3人組で、明るく元気なパフォーマンスが持ち味だ。昨年の全国大会もベスト8。今年は「勝てるとは思わんかった」が見事、全国2位に駆け上がった。

 3人が大切にするのは「伝わる、分かりやすいメッセージ」。全国大会で披露した「フレフレ自分」は、いじめられっ子や自信のない人を応援するメッセージだった。どんな内容だったのか。紙の新聞だけで「昭和―」のパフォーマンスを再現するのは難しいが、リング上の3人は会場をとりこにした。

 ゴングの後、嶋崎さんの「まったく…。なんでこんなにトロいのかしら」という言葉から、パフォーマンスは始まる。時には激烈なせりふで、時には本当に大きな声で3分間。

 リーダーの下尾さんは「ぼろくそに言うのは仲間やから。いじめやなくて『頑張りや』というメッセージ。本気で落ち込む人にはそういうこと言えん」と話す。伝えたいメッセージは「頑張れ」だ。

 そのために3人は体全体を使い、全力で表現する。「昭和―」のスタイルだ。「そこまでするか」と思ってしまうほど、全身全霊を傾けて大声を出す3人の姿に、観客は思わず笑い、いつの間にか引き込まれてしまう。

 下尾さんは話す。

 「最近、病んじゅう人多いろ? みんな忙しすぎるがやき。僕らはバカバカしいことでも一生懸命やりゆう。それを見て『あんな人もおるんか』って思って、元気になってもらえたら」

 3人は演劇の経験があり、リング上での朗読は寸劇のようでもある。「あんなん詩やない」と言われることもあるが、下尾さんにこだわりはない。

 「表現するという意味ではあまり変わらんと思う。とにかく3分間、何かしゃべったらいいかなって」

 嶋崎さんも「(このボクシングは)何をやっても許される。型にはまらない表現ができるのがいい」と言う。

 “詩”にとらわれない自由な表現は、全国でも十分に通じたようだ。


  ▼「秘密結社☆イデア」  「壁」越え心に触れたい

 「スー、ハー」

 「ラリナイ、ラリナイ」

 「スー、ハー」

 「ラリナイ、ラリナイ」

 深呼吸の音と呪文のような声。その上に詩の言葉が重なる。

 「休みの日に会社の前、通るときなぜか」

 「息止める」

 「お父さんとお母さんをみとって」

 全国大会に出場したもう一つの本県代表「秘密結社☆イデア」は、こんなパフォーマンスを繰り広げる。明るくて元気な「昭和歌謡曲B面」とは対照的に、どこか、うつうつとした朗読だ。

 メンバーは瀧村鴉樹(あき)さん(27)、青樹槐(えんじゅ)さん(25)、トミーさん(24)=いずれもペンネーム=の3人。伝えたいことを言葉ではなく、“音”にまで単純化する「音声詩」を取り入れた。言葉の背後を「スー、ハー」「ラリナイ、ラリナイ」が通奏低音のように流れる。

 トミーさんは「自分は周りと違うんじゃないかって、疎外感を抱いて生きてきた」と言う。

 リーダーの瀧村さんも同じだ。「感受性が強すぎて、日常生活の中でもつらいことが多い。同じように(自分は周りと違うと)感じている人も多いんやないかな」

 そんな“異邦人”たちの指針になれたら、との思いで3人は活動を続けてきた。結成は昨年9月。毎月末の土曜夜には、高知市帯屋町1丁目のアーケードで詩の朗読ライブを続けている。

 道行く人には冷たくあしらわれることが多い。「何をやりゆうがやろ?」と不思議そうな表情を見せる人、酒に酔って絡みに来る人…。でも瀧村さんは、意に介さない。

 「多くの通行人にとって、僕らはただの雑音でしかない。人は普段、見えない壁を作って生活する。何もかもキャッチすると心が壊れてしまうから、見えるものを単なる映像やノイズにする。でも、中には僕らの思いをキャッチしてくれる人もいる。どうやって壁を飛び越え、心に接触するかが課題なんです」

 「自分たちの詩は暗いと言われるけど、希望を読んでるつもり。ハスの花みたいな。しんどい、寂しいっていう泥の中でもがき、一生懸命上に向かって、やっと水面に顔を出す。呼吸ができて、花が咲く。ただきれい、ただ暗いじゃない」

 全国大会へ向けた8月の高知大会決勝で、「秘密結社―」は、後に全国2位となる「昭和―」を破って優勝した。両チームとも実力に差はない。


  《「昭和歌謡曲B面」の「フレフレ自分」(全文)》

 嶋崎 まったく…。なんでこんなにトロいのかしら。ほんとにもう。それに何よ、その服。超ださっ。こんなのと仲間だなんてほんと恥ずかしいわ。

 田村 …どうせ私はかわいくないし。

 下尾 まったく、お前トロいんだよ!

 田村 …どうせ私は何やったって下手だし。

 嶋崎 まったく、やってられないわ。

 下尾 どうする? メンバー変える?

 嶋崎 そうね。これじゃいいものを作れないわ。

 下尾 この、グズが!

 田村 …なんで私ばっかり、こんなこと言われなきゃいけないの? もう嫌だ…何もできない…。自分自身が嫌だ…。……(間が空く)。

 田村 フレー、フレー、じーぶーん。フレー、フレー、じーぶーん。

 下尾 あ?

 嶋崎 何ぶつぶつ言ってんの?

 田村 フレー、フレー、じーぶーん。フレー、フレー、じーぶーん。

 下尾 聞こえる?

 嶋崎 ううん。

 下尾 もっと大きな声出して言ってみろよ。

 嶋崎 もっとできるでしょ?

 田村 (立ち上がる)フレー、フレー、じーぶーん。フレー、フレー、じーぶーん。

 下尾 もっと、もっと出るだろ!

 嶋崎 できるわ!

 田村 フレー、フレー、じーぶーん! フレー、フレー、じーぶーん!

 下尾 そうだ! もっと! 出てるぞ! もっとー! もっとでっかい声が出るぞー! 出せー! もっと、もっと出せー!

 田村 フレー、フレー、じーぶーん! フレー、フレー、じーぶーん!

 下尾 そうだー!

 田村 これでいいの?

 嶋崎 そうよ、最高!

 田村 なんだかすごく声が出た。ちょー気持ちいい。

 嶋崎 そうよ!

 下尾 誰だって、誰だって秘めたエネルギーを持っている!

 嶋崎 自分の殻を破ることができるのは自分自身!

 田村 さあ、あなたにもできる!

 下尾 もっと、自信を持って!

 嶋崎 大丈夫。みんな受け止めてくれる!

 田村 できないことは何一つない!

 3人 あなたの魂が叫んでいる!


  《ズーム》

  ◆声と言葉のボクシング

 3人で行う団体朗読をボクシングに見立て、競技にした。ボクシングのリングにならったステージで、朗読者が交互に自作の詩を読む。どちらの朗読が心に届いたかを、観客が赤か青の札を掲げて判定する。主催は日本朗読ボクシング協会(横浜)。1997年から個人戦「詩のボクシング」を始め、2009年からは団体戦の「声と言葉の―」を開催している。


by videoartist | 2012-12-21 20:00 | 2012年個人戦・団体戦全国大会